#11 音楽・関口知宏の事

2013年5月10日

映画の重要な要素に「音楽」がある。

音楽を誰に依頼するのか、ずいぶん悩んだ。なにせ自主制作の低予算の映画である。 その時ふと、関口知宏が作曲したメロディが浮かんだ。以前、本人から頂いた「新生というタイトルの関口知宏作曲集(自主制作CD)を慌ててひっぱり出し聴いてみるとimageが大きく膨らんだ。(結局、この「新生」から2曲を挿入曲として使用する事になる)

関口知宏とは、2004年、私が企画しNHKと共同制作した大型番組「列島縦断 鉄道12000㎞ 最長片道切符の旅」の旅人として出演してもらって以来、4年間濃密にお付き合いした仲である。  彼は、この鉄道の旅の途中、パソコンを使って作曲をする才能を発揮した。 どの曲も日本的でありつつ、無国籍であり、透明感に溢れたメロディは私の心を響かせた。番組でもその音楽は大反響を呼んだ。

関口知宏・・・理論派でありながら、鋭い嗅覚を持つ感覚人間。祖父は映画俳優の佐野周二。小津安二郎・木下恵介監督などの映画に出演、田中絹代・原節子と共演するなど二枚目の大スターである。父親は関口宏。母親は「アカシアの雨がやむとき」「コーヒールンバ」など独特の歌声で魅了した歌手の西田佐知子(私は西田佐知子の大ファンで、EP盤を擦り切れるほど聴き、ブロマイドをアパート飾っていたほどであった)。

私がまだ20代の頃、蔵原惟繕監督がテレビのドキュメンタリードラマ「学徒出陣」を撮られた時、私はセカンド助監督についた。その時のレポーター兼メインキャスターが、西田佐知子と結婚したばかりの関口宏であった。ロケ現場で゛我々の西田佐知子゛を奪った関口宏に嫉妬心さえ覚えた。そして、その子息が関口知宏である。

私は、関口知宏の細胞内に眠る音楽的才能を見込み、まず台本を届けた。

数日後、「シナリオ、大変面白く読みました・・・ところで、自分はどの役ですか?」と聞いてきた。本人は俳優だから当然である。 「いえ、今回は映画音楽を担当して欲しいのです」「えーつ!?本当なのですか?」本人は目がテン状態だったが、初挑戦となる映画音楽に大変興味を示してきた。

関口知宏氏には、音楽以外に、自閉症児・光一の精神科医の役しとして出演もしていただいた。この時、作曲の佳境で寝不足気味。

関口知宏氏には、音楽以外に、自閉症児・光一の精神科医の役しとして出演もしていただいた。この時、作曲の佳境で寝不足気味。

関口氏には、テーマ曲の作詞・作曲、と挿入曲の作曲を依頼した。すると、1週間もたたずにテーマ曲「IBUKI」の歌詞がメールで送られて来た。(歌詞は次回で紹介)

素晴らしい詞だった。しばらくたって曲が完成し、本人が歌ったデモテープが送られて来た。(女性ボーカルを想定し回転数を上げソプラノの声に変換したものだった)

歌をカズン(うるしどひろし・古賀いずみ)にお願いすることにした。

カズンは「冬のファンタジー」でメガヒットを出した、いとこ同士のデュオ。このカズンには前出の「最長片道切符」の番組テ-マ曲「風の街」(作詞・作曲うるしどひろし)を作ってもらった関係があり、機会があれば一緒に仕事をしたいと考えていた。「風の街」はインデーズチャート第一位を獲得しただけあって、そのハーモニーはうっとりするほど美しい。

カズンにデモテープを送ると、是非歌ってみたいという快い返事が返ってきた。

関口氏は、パソコンを駆使し作曲をする。写真はシンセを加えアレンジをする。

関口氏は、パソコンを駆使し作曲をする。写真はシンセを加えアレンジをする。

関口氏は、伊豆の別荘に籠り挿入曲の作曲にとりかかってもらった。「曲のイメージをよく掴めない・・・」夜中、明け方に何度も電話やメールがあった。初めての映画音楽の挑戦であるから想定済みではあったが・・・。時間が押して来て、撮影済みの断片的な映像や、参考となる映画音楽を手元に届けたが、苦しんでいる様子だった。しかたなく、私がギターを弾き(ビートルズ世代なのでヘタクソだが、エレキギターを多少たしなむ)スマートフォンで録音しメールで届けた。

すると、堰を切ったように、パンチ力があるビート曲、森の再生をイメージしたシンセサイザーの曲、サスペンス曲、家族のテーマ・・などが次々と送られてきた。

関口知宏は才人だった。

 

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