#9 配役③ 怪優・きたろう

2013年5月2日

本読み」をクランクイン2週間前の5月7日に行った。

本読みとは、プロデューサーを筆頭に、メインスタッフと台詞のある役者が一同に会し、台本に沿ってファーストシーンから、ラストまで台本を声に出して読んでいく作業。スタッフとの顔合わせを含んでいるので、重要な1日である。

 

本読みの風景。キャストは自分の出番がくると席に加わりセリフを読む。

本読みの風景。キャストは自分の出番がくると席に加わりセリフを読む。

ト書きをチーフ助監督が読み上げ、セリフは俳優が言う。今回はオールロケセットの為、その現場写真をスライドショーで見せ進行してゆく。また、持ち道具(身につけるもの)や衣装の確認なとども同時に行っていく。これによって全員が共通認識を持ち、また、質疑応答の場となる。

このセリフはこうした方がいいのでは・・・このシーンはどう解釈したらいいか・・・俳優諸氏からも鋭い質問が出る。
これはどんな動きをするのか・・・カメラマンも確認して来る。すると、台本とロケ現場が一致しないといった様々な懸案が持ち上がる。
プロデューサー3名、演出部4名、撮影部3名、照明部1名、録音部2名、美術部4名、ヘアメイク・衣装2名、制作部6名の合計25名が固定スタッフ。撮影現場はドライバーや応援スタッフが加わるので30名を超える。

まだ、決まっていないロケ場所、許可が下りていない場所、シナリオ修正・・・などを、クランクインまでの2週間の間に各パートに分かれ解決しなければならない。

 

本読みをする堤下・板倉氏。この段階ではアドリブのセリフを禁止した。奥がきたろう。

本読みをする堤下・板倉氏。この段階ではアドリブのセリフを禁止した。奥がきたろう。

この日を境に各スタッフの顔付きが変わる

この本読みで一番凄かったのは八木さん役のきたろう氏である。八木役は長セリフが随所にあったが、きたろう氏は本読みの段階でセリフが入っており、役になりきっていた。他の役者も驚いたに違いない。

八木さんは自殺志願者で、樹海で迷ったディレクターふたりが、森の中で偶然に出会う中年男である。この男と遭遇することで、ふたりは命拾いし、また八木さんも一瞬自殺を思い留まり、樹海から出る、という設定。主役ふたりにとって「助けた、助けられた」という微妙な関係の重要な役である。八木役は切迫した中に、どこかとぼけた味を持つ役者が必要だった。

今回の映画のキャスティングの責任者である藍澤幸久プロデューサーに相談すると、藍澤氏から「きたろう」の名前があがって来た。きたろう氏と親しい間柄という事もあり、声を掛けてもらうと、きたろう氏は大変乗り気だという。

きたろう氏にお会いし、役柄の説明と減量(ダィエット)をお願いした。八木さんは、多額の借金を抱え「樹海」を死に場所と決め森に入った。所持金もなく、当然食事もしていない・・・。

樹海の中で、偶然、自殺志願者の八木さんと出会う。この事で命拾いをするふたり。

樹海の中で、偶然、自殺志願者の八木さんと出会う。この事で命拾いをするふたり。

撮影の当日がやって来た。きたろう氏を見ると、頬がげっそりしていた。藍澤プロデューサーの証言によると、昨夜は近くの宿に宿泊したが、旅館の夕食、ロケ当日の朝食も抜いたという。

「腹へったなぁ・・・」撮影中何度も呟いていた。私が感謝の意を述べると「オレは役者バカだから・・ハハハハ」だった。

その日の撮影が終わり、追い打ちをかけるように「さらに減量をして下さい」と私。二年後に再び八木さんと主役の二人が再会する設定だが、その二年後は、四日後に撮影する予定である。「・・・聞いてないよう・・・」。

さらに減量したきたろう氏 プロです。こういう役者に囲まれて助けられた。

さらに減量したきたろう氏
プロです。こういう役者に囲まれて助けられた。

四日後、岳南鉄道のホームで、二年ぶりの再会のシーンの撮影。きたろう氏の体躯を見て、さすがプロ!とスタッフのみんなが感嘆した

きたろうは怪優だったs-0611-テントの中の八木-_MG_2445

 

 

 

 

 

お知らせ

アーカイブ

2013

123456789101112