#19 撮影日誌③
2013年6月17日
5月22日。
午前中、森の中での撮影。ふたりが霧の中を進むシーン。
普通、霧は発煙筒などを焚いて作るが、森の撮影許可条件に「火器厳禁」とあるため「ロスコ」という霧発生装置を6台用意する。美術部・制作部・演出部総動員で森の中を駆けずりまわる。風向きがころころ変わるので、その度にスタッフが風上へ移動しなければならない。重労働である。
午後、山梨県側へ移動。モデルとなったSディレクターたちが、実際に利用していた宿泊所「富士健康センター」を借用しての撮影。
「富士健康センター」は河口湖のほとりにあり、浴場・宴会施設などもある巨大な宿泊施設。当時、24時間営業していた事もあり、また料金も安くふたりの定宿となっていた。
ところがロケハン中、この「健康センター」は「水製造工場」に変わるという情報が飛び込んで来た。その為、大規模な工事を行うという。慌ててスタッフが現地へ飛び、経営者に交渉。工事を一時中断、フロントなどの一部を撮影のため保存したいただいた。ご理解・協力をいただいた社長に深く感謝したい。
シナリオ#16 健康ランド・受付
宿泊手続きをしているふたり。フロントに新人の谷川由梨と、年齢不詳の小森茂子が受け付をしている。
茂子は地味な髪形だが、独特の色香を放っている。スタンプカードを用意する茂子。
その時、胸の谷間が一瞬見えドキリとする阿部。その視線を十分意識している茂子。
この阿部と茂子の出会いのシーンを7カットで撮影する。大切なのはふたりの会話や動作が噛み合わずギクシャクした感じを出し、未来を予感させておく必要がある。烏丸せつこがうまく<間>を刻んでくれた。
この茂子という謎めいた女の存在は、シナリオ第一稿ではなかったが、プロデューサーの意向もあり、第二稿で謎の女・小森茂子を登場させた。
従って茂子は私の全くの創作である。Sディレクターにシナリオを送り感想を求めると「この情報はどこから仕入れたのですか?T氏が告白したのですか?」と聞いてきた。S氏によると、かってこの宿泊所に美人で艶っぽい女性が働いていて、相棒のT氏が入れ込んでいたとの事。T氏は「過酷な樹海取材に耐えられたのは、彼女の存在があったから・・」と呟いていたそうだ。
事実はやはり面白い。