#6 配役① インパルスとの邂逅

2013年4月26日

「樹海のふたり」の準備を進める中で、主演のキャスティングは白紙のままだった。

この映画のモデルとなった実在のディレクターと出会い映画化を思い立った時、私の頭には何故か一本の映画が浮かんでいた。 アメリカンニューシネマ「スケアクロウ」(1973年・シャッツバーグ監督)である。

主演は、アルパチーノとジーン・ハックマン。ふとした事で知り合ったふたりの友情と、夢と挫折を描くロードムービーの傑作である。 小柄で神経質、何をやらかすのか判らない狂気を秘めた男をアルパチーノが、大男で大食漢、女好きで暴力的だが優しい男をジーン・ハックマンが演じた。

このイメージを元に、タレント名鑑のページをめくり、いろんな俳優の組み合わせをして見たが、これだ!というものを見出せず焦り始めた頃だった。

柏井プロデューサーから「インパルスというお笑いコンビを知っているか?彼らは監督が抱くイメージに近いものを持っている」という連絡があった。お笑いが大好きな息子に「インパルスって知ってる?」と聞くと、何でも、芸人同士が芸を競う番組で「完全制覇」を達成した人気コンビだという。

慌てて彼らのDVDを取り寄せ観た。 インパルスが繰り広げるコントには下ネタはなく、鋭い人間観察から着想されたシュールな作品群で、しかも、全てが板倉俊之氏のオリジナル台本だという。彼らは単なるお笑い芸人ではなく、クリエイターの匂いを放っていた。また、劇中の年齢とも適合していた。いまじんの相川弘隆プロデューサーが出演交渉の窓口となりすぐに脚本を届け、打診を始めた。

2012年の初春。 新宿にある吉本興業で、インパルスのふたり板倉俊之、堤下敦両氏とお会いした。

板倉氏は 開口一番「ボクが書いた小説を読まれてキャスティングされたのですか?」と聞いてきた。 板倉氏は『蟻地獄(2012年4月出版・リトルモア)という題名の長編小説を上梓されたばかりだという。その小説の舞台に「樹海での集団自殺」が登場するため、何度も「樹海」に下見に行っていた、との事。

何という偶然・・・。 「お互い見えない糸を引きあっていたのですね・・これを縁というのです」と私。

「でも、俺たち演技が出来るかどうか不安です」「いえ、演技がうまいか、ヘタかどうかは問いません。自然体で出来ればいいのです」「じゃお願いします」という事になった。レギュラー番組を抱え多忙なふたりのスケジュールを聞き、その場で、クランクインの日を確認し合った。

半年以上かかっても決まらなかった主役のふたりのキャスティングは、わずか10分もかからず決定した

 

撮影は、レギューラー番組を抱えるスケジュールを縫って敢行された。

撮影は、レギューラー番組を抱えるスケジュールを縫って敢行された。

※ちなみに『蟻地獄』はクランクアップ後に読んだ。違法カジノ・臓器売買・集団自殺・・・アンダーグラウンドを舞台に、サスペンス豊かに切り込んだ怒涛の436ページ、板倉俊之氏の筆力に圧倒される。

そして、2012年5月20日にクランクイン。

 

撮影は、何度もテストをせず、動きを確認し、ぶっつけ本番で臨んだ。

撮影は、何度もテストをせず、動きを確認し、ぶっつけ本番で臨んだ。

本人たちは、演技にあたって「スケアクロウ」ではなく「フェイス/オフ」(1998年 ジョン・ウ-監督)のニコラス・ケイジとジョン・トラボルタを意識していたらしいが・・・(笑い)。

お知らせ

アーカイブ

2013

123456789101112