#16 脚本作業 樹海体験③

2013年5月28日

今回で、脚本作業に関する記述の最後。

自殺を決意した人が、なぜ、最期の場所として「樹海」を選択するのだろか?ずっと疑問だった。 「樹海」はそれほど人を引き込む魔力を持っているのか?

「樹海」に行くためには、電車とバスを乗り継がなければならない。またバス停に降り立ったとしても、どこから樹海に入ればいいか戸惑うはずである。 フリーディレクターのS氏によると、樹海に来る「自殺志願者」は、東京近郊の人ばかりではなく、東北・関西・九州などから来た人もいたと言う。

何故、そんなに遠くから日数をかけてアクセスが不便な「樹海」にまで来るのか・・・?

官庁の統計によると、自殺の方法は、自宅での首吊り、飛び込み、ガス、など生活圏での実行が圧倒的に多い。また、樹海でなくてもそれに準ずる深い森はいくらでもある。 では、なぜ「樹海」なのか

S氏によると、ひとつは「行方不明」となってこの世から身を消したい人ではないか、と云う。

樹海内は湿度が高く白骨化が早い。身分の判るものを全て処分してしまえば、半年後には、身元不明の無縁仏となる。 自宅で首を吊れば、自殺した事が周知の事実となり、葬式やお墓の問題など、残された人たちは大変な思いをする。しかし、行方不明になれば(実際は樹海で命を絶ったとしても)、世間的にはあの人はきっとどこかの空の下で生きているに違いない・・と思われる。

また、樹海のバス停に降り立ったとしても、すぐに森に入って行く人はほとんどいない、と云う。何日間も下見をした後、思い止まったのか、帰っていく人も多いらしい。つまり、樹海に来る人は、迷っている人たちである。電車やバスを乗り継ぐ間、決断するための<長い思索の時>を求めているのである。

今回の映画では、「行方不明」を目的に樹海に入った男・八木さん役をきたろうに託した(このエピソードは#9 怪優 きたろうの回で触れた)。八木さんのキャラクターなどは創作だが、S氏たちはこれに近い体験をしたという。命綱にしていたロープの結び目がほどけていることに気が付かず、かなり奥へ入ってしまい方向性を失った。半日間ほど森を彷徨っている時、自殺志願者と遭遇し、その男の案内で、樹海の脱出に成功したという。

s-0529-霧の中を進む2人-_MG_0352

 

よく樹海では「磁石が狂う」という説がある。我々もいくつかの場所で実験したが、見た目にコンパスが極端に違う方向を示す事はなかったが、場所によってはわずかだが狂う場所もあった。今も溶岩石には多量の鉄やチタンなど磁性鉱物が含まれ、その層が厚い所では、コンパスに影響を及ぼすことが判明した。

また、GPSも(現在はかなり改善されているが)2004年当時、木々が電波を遮断するのか、樹海の中では受信不能のマークが点滅していた。もちろん、今でも携帯電話もつながらない所の方が圧倒的に多い。

樹海が魔境と恐れられる所以である。

一回目のロケハンを終わり、帰京する車の中でこんな台詞を思い付いた。

阿部(堤下)「でも、俺たち、どうして樹海にはまったんだろう・・・」

竹内(板倉)「出口を見つけたいからさ・・・」

阿部「・・・・・・」

竹内「人生なんて、樹海のど真ん中にいるようなものじゃないか・・・どっちの方向に入ったらいいか判らず、ウロウロしている」

阿部「・・・・・・」

s-0528-途方に暮れる2人-_MG_0264

次回は、いよいよ、クランクイン。

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